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『リローデッド』と『レボリューションズ』の視覚効果作業が始まったのは2000年3月。3部作を通して視覚効果監修を務めるジョン・ゲイターがこのシリーズのために立ち上げた視覚効果工房“ESC”(“エスケープ”と読む)は、『リローデッド』だけで1300以上、『レボリューションズ』用にはさらに800あまりのVFXショットを手がけた。『マトリックス』が412だったことを考えると、数もスケールも桁違いである。
『マトリックス』でゲイターが開発した技法の代表がのちに“マシンガン撮影”として知られるようになったものである。映像アクションを、日本のアニメーションの手法で表現するという画期的なテクニックだ。マシンガン撮影はマトリックスという仮想現実内部に入り込んだ状況を表現する。マトリックスに入ったキャラクターは――主にネオだが――“マトリックスを超越する精神力”を備えることになる。そして、このコンセプトを映像にする技術が“バーチャル・シネマトグラフィ”と呼ばれる。ゲイターと製作スタッフがデジタル技術を駆使して編み出したこの手法により、精神がマトリックスを超越するシーンが通常のカメラスピードでありながらスローモーションで描写される。その結果、思いのままのスピードで、しかも鮮明度を落とさずに撮影することが可能になった。
ところが、その革命的な技術でさえ十分ではなかった。ゲイターいわく、「ほとんど使えない」。というのも、『リローデッド』と『レボリューションズ』でウォシャウスキー兄弟が目指したのは、人間業を超えるアクションの数々だったからである。まず『リローデッド』。14分に及ぶ手に汗握るフリーウェーのチェイス、ネオが100人のエージェント・スミスと戦う“大乱闘”シーン、そしてネオが巨大都市マトリックスを時速2000マイルで飛行するシーン。ゲイターはそれらを見事にやってのけたが、『レボリューションズ』ではウォシャウスキー兄弟の野心はさらに燃え上がっていた。次々に襲ってくるクリーチャーたち、人類が操作する巨大なロボット、バーチャル技術による破壊で演出される“攻囲”、センティネルズとディガーズが容赦なく襲いかかる中で繰り広げられるザイオン対マシンの壮絶な戦い。さらに、邪悪なるマシン・シティとその“バイオ・メカニカル”の住民を描き、ネオとエージェント・スミスの最終対決“スーパー大乱闘”に生命を吹き込んだのもゲイターである。
「マシンガンの手法を焼きなおしていたのでは、にっちもさっちも行かない。それは自明の理だったよ」とゲイター。『マトリックス』の視覚効果では、見事アカデミー賞に輝いた。「あの手法では制約が多すぎるし、時間も手間もかかりすぎる。こうなったら、マシンガンのコンセプトを映像技術に高めるしかない思ったね」
つまりは、この世に存在しない映像技術を開発するということである。ゲイターやウォシャウスキー兄弟にとっては、お手のものだ。しかし、3人が計画した今回のバーチャル・シネマトグラフィは常人の想像を遥かに超えていた。「3人は、誰にも真似のできない映像を作り出してやろうと決めたんだ」。プロデューサーのジョエル・シルバーが明かす。「それには時間も費用も才能もいる。けれど、完成したビジュアルにはぶっ飛ぶよ。既存のアクション映画や映像や映像技術を“進化させた”なんてレベルじゃない。進化させるどころか、一掃してしまったんだ」
ゲイター率いるVFXチームが出した結論は、生身のメインキャラクターをバーチャル化すること。これによって現実の世界ではありえない超人的パフォーマンスをさせることが可能になる。バーチャルキャスト誕生に向け、チームはモーション・キャプチャー(通称モーキャップ。人間の動作を3次元CGIの人型キャラクターに反映させる技術)を駆使した。まずは主要キャスト、ユアン・ウーピン率いるマーシャルアーツチーム、スタントマンの一団に、反射するボディスーツを着用させ、アクションを実演してもらう。それを高性能カメラを用いて撮影し、精密な動体データとして記録するのだ。
『リローデッド』のために何ヵ月もかけてモーション・キャプチャー・データを取り、『レボリューションズ』のクライマックスであるネオとスミスの“スーパー大乱闘”でもさらにモーキャップを使った。
モーション・キャプチャー用に特別設置されたサウンドステージーー少なくとも本シリーズ撮影段階では史上最大のモーキャップステージーーは実写撮影と並行してフル稼働。ここで得られたデータは本編のみならず、ビデオゲーム『ENTER
THE MATRIX 』にも使用されており、そのデータは膨大な量に上る。最新のビデオゲームも恐れをなすほどの量だ。
「モーション・キャプチャーはとても新鮮でした」とウーピンは感想を語る。「見事なテクノロジーですよ。おかげで現実にはなしえない立ち回りを考案することもできました。モーション・キャプチャーを使うと、アクションの迫力からキックの美しさまで違ってくる。実写だけではそうはいきません」
ゲイターらはモーション・キャプチャーのデータを編集する段階で、バーチャルキャストのボディを文字通り切り貼りし、実写同然の筋肉や衣装を付け足していった。次はキャラクターの顔にリアルな表情を出す作業に入ったのだが、この時に開発された技術も実に画期的である。VFXチームはこれを”ユニバーサル・キャプチャー(ユーキャップ)”と命名。ユーキャップでは俳優一人につき5台の超高解像度カメラ(ソニーのHDW900)を使う。この5台を俳優の顔を囲むようにして配置し、表情や感情表現の移り変わりを細大漏らさず記録させる。それこそ、毛穴ひとつ、髪の毛1本まで逃さずにである。
チームは5台のカメラが記録した精密な情報をもとにデジタル俳優の顔に生々しい質感を加えた。結果、誕生したのは史上類を見ないリアルな人型キャラクター。あとは背景、物体、効果(ガラスの反射、銃弾の弾跡、血しぶきなど)といったエレメントを足すだけ。こうして完成したビジュアルがカメラワーク自由、編集自在のバーチャル撮影で動画化される。この一連の工程こそ、視覚効果チームがいう“バーチャルシネマトグラフィ”なのである。
ゲイターはウォシャウスキー兄弟と開発した技術バーチャル・シネマトグラフィによって“スーパー大乱闘”をより迫力あるものにした。ネオとエージェント・スミスは地表を揺るがすようなパンチの応酬をしたかと思うと、いきなり空高く飛び上がる、といった壮絶なバトルを繰り広げる。それをカメラは何の制限も受けずにとらえていく。また、ネオの拳がエージェント・スミスの顔面をとらえた瞬間のシュールなインパクトは前例のないもので、超スローモーションと超音速で繰り広げられるアクションを、現実では不可能なアングルでカメラがとらえている。これもバーチャル・シネマトグラフィだからこそできた離れ業だ。この時のスミスの顔のクローズアップは、CGで作り出されたものとしてはこれまでで最も現実に近いものに間違いない。
バーチャルシネマトグラフィの原点は、『マトリックス』に登場したヘリコプターの激突シーンに見てとれる。激突の衝撃で高層ビルの表面が波上にうねる、あの印象的なシーンだ。シーンを完成させるにあたり、製作スタッフは引力や重力といった物理学的ルールをいっさい無視することに決めたという。なにしろマトリックスは“ルール無用、なんでもあり”のシュールな空間。ビルが波打つという奇妙な光景さえ違和感がない。スタッフは今回の2作で徹底した“掟破り”を断行し、“波打つビル”のコンセプトを応用した新感覚のアクションを作り上げた。
「重力、引力といった自然の法則はアクション映画にとって足かせだったと思う。けれど、そのかせを外すことができたら、僕らの構想を遠慮なく形にできるんじゃないか思ったんだ」とジョン・ゲイターは語る。「現実ではできない“破壊行為”を映画でやるのは痛快だね。近所のスーパーで売ってるものを組み立てて壊すより、ずっと面白い。」
白熱の“スーパー大乱闘”シーンを実現させた革新的な視覚効果に加え、ゲイターのチームは、ウォシャウスキー兄弟のイメージどおりに“攻囲”を描くために、最新のクリーチャー・アニメーションを開発した。『レボリューションズ』では、猛攻撃をしかけるマシン軍のセンティネルズとディガーズに対し、ザイオン反乱軍の“武装人民隊”(APU)が徹底抗戦する。その圧巻の崩壊シーンではアニメーションの壁はすべて取っ払われた。そして、次世代の新しいアニメーション技術やその他の人工知能に基づく方法論により、VFXチームはマシン・シティにあふれる住民――生体力学によって誕生したバイオ・メカニカル・クリーチャー――も作り出した。この昆虫を基にしたクリーチャー、壮大なスケールのマシン・シティとザイオンはすべて、ディテール重視で有名なコミック作家ジェフリー・ダロー(代表作『Hard
Boiled』)による特異なデザインに基づいている。
さらに『レボリューションズ』では現代アニメの伝統にならい、空、水、炎といった自然の産物をリアルな3Dで表現し、生命、知性、個性を宿しているかのような印象を与えている。ほかにも稲妻、爆発といったエレメントのデザイン、スタイル、表現に斬新な工夫が施された。「ウォシャウスキー兄弟はね、超常現象を毒々しいほどリアルに描くことにとりつかれてるんだよ」とゲイターが小声でささやく。「おかげで、こっちは秩序と混沌のバランスを取るのにテンテコ舞い。鉄砲水を額縁の中に収めるようなものだから」
ビジュアルチームが参考にした出典は数知れない。映画では『エイリアン』『2001年宇宙の旅』『めまい』『地獄の黙示録』、地球生物をテーマにしたスタイリッシュなドキュメンタリー『Koyaanisqatsi』や『Powaqqatsi』、アイマックス映像『Blue
Earth :20,000Leagues Under the Sea 』。ドキュメンタリーでは、格闘技、ヒンデンバーグの火災、1800年代の潜水艦、深海生物、ロッキー・マルシアノなどヘビー級チャンピオンボクサーをテーマにしたもの。カーチェイスや自動車事故の実録番組。自動車衝突事故の研究フィルムも加わった。文字資料としてはロボット製作、ガラスの爆裂、フランスとイギリスを結ぶ海峡トンネルの構造、人工知能に関するもの。日本アニメの爆発名場面集も大いに参考になったという。
「『リローデッド』では、“大乱闘”、フリーウェーのチェイス、そしてネオの飛行といった人間離れしたアクションを、ハイパー・リアルなバーチャル・シネマトグラフィで表現することに全神経を注いだ。」とゲイターが説明する。「今回の『レボリューションズ』では、人類対マシンという黙示録的な対立、そして、マシン・シティやザイオンのような現実世界内部の大規模な環境を作り出すことに集中したんだ。この2作に注いだ僕らの努力によって、『ブレードランナー』、『エイリアン』、そして高いコンセプトで画期的な視覚効果が使われた多くの映画の流れをくむダーク・サイエンス・フィクション・シネマがどんどん進化していくといいと思ってる。」
気の遠くなるような作業量とそれにかかる莫大な時間を考慮し、ゲイターは外部のVFX工房にも協力を要請。そちらの監修も兼ねることになった。ゲイターの要請に応えてくれた工房は、BUF(マトリックスのコードのシーンや知覚の映像化を担当)、ティペット・スタジオ(CGIによる環境、クリーチャー制作を担当)、ソニー・イメージワーク(センティネルズのトンネル、トンネル内のアクションを担当)、ジャイアント・キラー・ロボット(アンダーグラウンドの環境を担当)。
プレビジュアライゼーションからポストプロダクションに至る煩雑な作業工程をすっきりと統括・管理するため、ゲイターらは“ザイオン・メインフレーム”を立ち上げた。これはビジュアルに関する情報やデータをやりとりするためのエンジンだが、映画製作の現場でこれほど機能性に富んだエンジンが設置されたのは初めてだという。その役目は検索だけにとどまらない。ビジュアル制作にかかわる各部署が共有できる一大資料館といったところだ。このエンジンを通して閲覧できるのは、デジタル化されたデザイン画、デザインコンセプト、絵コンテ、CADによるステージプラン、コンセプトとステージ構想の立体モデル、高解像度のモデル、現在進行中のショットを集めた“クイックタイム・ムービー”(撮影現場から随時上がってくるラッシュや撮影済みショットをコンピュータ上で再生することが可能)。また、各VSF工房が完成させたショットのバックアップも実物さながらの解像度で参照できる。
現在までに、『リローデッド』『レボリューションズ』のバーチャル効果に関わったスタッフの数は、特殊写真効効果、フィジカル効果、火薬を扱うパイロテクニック効果を含め、現時点で、総勢1000名を超えた。
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